2018年 05月 07日
ナガミヒナゲシ |
KAKONEKONONIWA
隣の駐車場でナガミヒナゲシがモリモリと茂っている。腰の高さほどもあるだろうか。
友人を訪ねてロンドンへ行ったのは、かれこれ30年も前のことだ。夏草の黒々と生い茂る日本をたったのが9月初旬のこと。ロンドンはすでに初秋の冷涼な気候だった。空き地の草の色は淡く、その中に点々と淡紅色の小さな花が咲いていた。9月というのにそれはヒナゲシの花だった。なんと貧弱な花だろう。手にしてみなければヒナゲシだとも判断がつかない。
イギリスは酪農には向いていても、農業には向かない国だとも言われている。こんなに痩せた土では作物が出来るはずがない。友人は食器や水の濾過器に付く石灰に辟易していたし、イギリスの野菜はオランダから輸入されているとも言っていた。
降雨量が多く肥沃な土壌の日本。放っておいても作物は育つ。ただし雑草との過酷な戦いは避けられないし、病害虫の被害も多く、さらに自然災害は容赦もない。それに比べるとヨーロッパの気候は穏やかで降雨量が少なく、痩せた土地はアルカリ質で雑草が生い茂ることがないから、農作物との共存も可能だ。同時にそれは作物が育ちにくいことも意味している。北に位置して気温も低く、日照も乏しいイギリスが農業に向かないと言われるのも当然かもしれない。
イギリスは国土そのものが庭園とも言われる。100%に近い国土に人の手が入っているからだ。植生に乏しかったからこそ海外から植物を集め、痩せた土壌を改良するために酪農、植林を繰り返し、今の園芸大国と言われるイメージを作り上げてきた。園芸の条件に恵まれていない風土だったからこそ研究が進み、さらに植物学、薬学、医学、化学、と発展の道が切り開かれたのかもしれない。
ああ皐月仏蘭西の野は火の色す君も雛罌粟われも雛罌粟
あの与謝野晶子の歌にあるように、野を埋め尽くすほどの赤い花、それがヨーロッパのヒナゲシのイメージだった。季節こそ違え、ロンドンのヒナゲシはあまりにも貧相だった。
その仏蘭西に行くために渡ったドーバー海峡は海も空も暗く、ホワイトクリフと呼ばれる石灰層の岸壁が白く続いていた。
イギリスは本当に園芸大国なのかと思うことがある。農作物とは野菜だけのことではない。イギリスに流通している草花の苗はどこから来るのだろう。
ナガミヒナゲシは地中海沿岸を原産とする花だ。どこをどうやってこの極東までたどり着いたのだろうか。今、身近な空き地を見ても、原産地の判別しにくい植物が多くある。ヒメジオン、セイヨウタンポポ、オオキンケイギク、取り上げたらきりがない。特定外来種とか、絶滅危惧種とか心配されているのに、海外からの園芸種の輸入も後を絶たない。ガーデナーにもその責任の一端があるのかもしれない。しかしその反面、危険外来種と言われるほどの悪影響が本当にあるのだろうかとも疑ってしまう。神経質になりすぎているようにも思える。イギリスは南方系アジア人ばかりが目についた。ヨーロッパが人種の坩堝であるように、地球はやがて揺り動かされて、人も植物も動物も混ざり合ってカオスとなって行くのだろう。
それにしても、隣のナガミヒナゲシの種、鞘が弾けたら一体どうなっちゃうんだ。きゃー! 恐ろし。
by kakoneko-nyan
| 2018-05-07 02:10
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