2017年 05月 10日
ネオン |
KAKONEKONONIWA
デルフィニュームやラークスパーによくある、原色のシアンのような青や、この矢車菊の、蛍光塗料を塗ったみたいな青を、あまり好きだと思ったことはない。昼間の強い光線を反射して光っている花は、遠目で見ると梱包用のビニール紐みたいに見える。夜の繁華街のネオンのようでもある。ネオンドワーフレインボーという青く光る熱帯魚もいたはずだ。青は不思議な色で、明度が低く落ち着いた色なのに、唐突に浮かび上がり、お花見のブルーシートみたいに景色に馴染まない。
昔、まだ若かった頃、友人と連れ立って京都へ行ったことがある。地図を片手に目指していたのは、麩屋町(ふやちょう) という場所だった。生麩でも買うつもりだったのか。料理なんかしないのに。アンアンやノンノといった女性誌の記事に煽られたのだろう。ところがいくら探しても見つからない。夕方になってほとほと疲れ果て、近くのビルの中にあった喫茶店で足を休めることにした。店のウエイターに「この辺りに麩屋町ってありますか?」と聞くと、若いウエイターは愛想よくニコニコして、「すぐそこですよ。ビルを出て右手に看板があります。」というようなことを教えてくれた。若い女の子が二人でお茶をしていれば、時間の経つのは早いもので、ビルの外に出た時には、あたりはすっかり暗くなっていた。しかも色とりどりののネオンが輝いて、来た時には殺風景だと思っていた景色が、別の場所かと思えるほどに変わっていた。言われた通りの方向を見ると、ビルの袖の大きな電飾看板に、「不夜城」という夜光虫のような青い文字が光っていた。
ウエイターの笑顔は、ニコニコではなく、若い女の子をからかってニタニタと笑っただけだったのだ。多分、そこはラブホテルで、夜になって華やぐ歓楽街の一角だったのだろう。昼と夜のあまりの違い、不夜城という言葉のイメージが、長い年月の間に電圧を上げ、光量を増して、夜の歌舞伎町のような風景を頭の中に作り上げ、京都というイメージを変えてしまった。アンノン族が京都からいなくなって久しい。今、眠らない城は外国人が占領し、京都をギラギラした赤い色に染めている。花も街も時代も光がその見え方を変えてしまう。
矢車菊は、一年草でありながら、改良されすぎていない野趣のある良い花だと思う。この花を好む人は多いはずだ。自然界にあまり多い色ではないから、この青を神秘的に感じることも確かだ。残念ながら、矢車菊は夜になると早々と明かりを消して、ネオンのように輝いてはくれない。
by kakoneko-nyan
| 2017-05-10 23:33
| 庭